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zoom RSS 遺産の一部につき「相続させる遺言」がある場合の遺留分と遺産分割の関係

<<   作成日時 : 2015/12/03 12:46   >>

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[ケース]
相続人は、A・Bの二名。遺産は不動産と現金(預金ではない)2000万円。
遺言で不動産をAに全部相続させるという遺言があった。不動産の時価は1200万円。
この場合、Bの遺留分は、3200万円の4分の1、つまり800万円である。

[本来の事件処理の進め方]
この場合、まず現金2000万円を遺産分割し、その後に、Bの遺留分が侵害されたか否かを検討することになる。
もし遺産分割の結果、具体的相続分として、Bが、現金800万円以上を取得すれば、Bの遺留分を侵害していることにはならない。
逆に、遺産分割の結果、具体的相続分として、Bが、現金800万円未満しか取得できないときは、Bは、遺留分を侵害されたことになるから、800万円に達する金額に相当する遺留分を有し、これを行使することになる。

以上のように、遺産の一部が相続させる遺言で他の相続人に相続されたとき、まず遺産分割を行い、確定した具体的相続分に基づいて遺産分割を行う。それにより、遺留分侵害が判明したときは、遺留分減殺訴訟を地裁に提起することになる。ただし、実際は、遺留分は確保できるよう遺産分割を行えばいいから、遺産分割を先行させたときは、遺留分侵害が問題になることは少ない。

[弁護士の無知から遺留分減殺訴訟が先行することから生ずるトラブル]
ところが代理人弁護士の中には、この点に関する知見を欠いている弁護士が結構いて、具体的相続分が判明していないのに、いきなり遺留分減殺調停を起こしたり、訴訟を提起する弁護士が結構いる。また自覚のないまま、受けて立つ弁護士もいる。信じられない話だが、自分の経験では、このあたりを全く理解していない弁護士が、理解している弁護士より遥かに多いのが現実だ。
自分の取り扱った例では、これを理解している弁護士は少数で、いくら当方が説明しても、理解できないという弁護士の方が圧倒的に多い。

[遺留分侵害訴訟が先行した場合の処置]
ところで、法律では、遺留分減殺訴訟を提起するには、先に具体的相続分を確定してください、という要件はない。地方裁判所としては、具体的相続分未確定のまま遺留分減殺訴訟を提起されたら、家裁での具体的相続分が確定しないままの状態で遺留分侵害額を判断せざるを得ないことになる。

遺産分割よりも遺留分侵害訴訟が先行した場合、地方裁判所は、「現金2000万円については、家庭裁判所では、たぶん、このように分割するだろう」という予測し、その予測に基づいて遺留分侵害額を計算するしかない。
上記の例でいえば、Bは、たぶん1000万円を遺産分割で取得するだろう、と予測すれば、Bは遺留分が侵害されていないことになるから、Bの遺留分侵害請求訴訟は、Bの請求棄却となる。
これに対し、Bは、たぶん500万円しか分割取得できないだろうと予測すれば、300万円の遺留分侵害が認められることになる。

[具体的相続分説と法定相続分説の対立]
それでは、地方裁判所は、何を基準に「たぶん、このように分割するだろう」と予測するのか。その基準は、法定相続分か具体的相続分か。
これについては、法定相続分を基準とする見解と具体的相続分を基準とする見解に分かれ、結論は出ていない。
 〈法定相続分説〉
理論的には、法定相続分を基準とする方が一貫する。
具体的相続分は、あくまで、家裁が遺産を分割する際の配分基準に過ぎず、相続そのものは法定相続分で相続する。遺留分減殺訴訟の段階で遺産が未分割ということは、AもBも、その時点では、法定相続分で共有していることになり、法定相続分を基準として遺留分侵害の有無を判断することになる。
 〈具体的相続分説〉
しかし、地裁では、特別受益を持ち戻して計算に組み入れ、遺留分侵害の計算をする以上、その計算にあたり、特別受益を持ち戻して遺産の計算に組み入れれば、「たぶんこのように遺産分割するだろう」と判断しても、おかしくはない。現時点では、この具体的相続分説が有力である。
ただし、この立場にたっても、特別寄与は判断できない。特別寄与は、家裁の審判でのみ形成できる事項だからである。

[遺留分が先に解決した場合、後の遺産分割に影響を与えるか]
  〈ケース〉
それでは、先に遺留分が裁判上の和解で成立してしまった場合、その和解は、後に行われる遺産分割に影響を及ぼすのだろうか。
例えば、上記の例で、まず1200万円の不動産について遺留分侵害訴訟が提起され、300万円をBが価格弁償金として取得した場合、現金2000万円を遺産分割する際、Bが300万円を遺留分侵害訴訟で取得したことは考慮されるだろうか。

上記の例で言えば、Aが遺言で1200万円の不動産を相続したことは特別受益に当たるから、みなし相続財産は、3200万円になる。
  〈考慮しない説〉
もし、考慮されないとすると、Aの取得分は、(3200万円÷2)−1200万円で、Aの具体的相続分は400万円ということになる。これに対し、Bは、先に取得した300万円に加えて1600万円を取得することになる。最終的な取得分は、Aが、1300万円(不動産900万円 現金400万円)、Bが1900万円(価格弁償金300万円、現金1600万円)になる。
  〈考慮する説〉
一方、考慮する立場だと、Bが3000万円を遺留分侵害訴訟で取得したことは、すでに遺産分割に先立ち、「一部遺産分割」が行われたと解することになる。
この場合、1200万円の不動産を、Aが900万円、Bが300万円で先行して分割したものと考え、これを最終的な遺産分割の中で清算することになる。
Aは(3200万円÷2)−900万円=700万円で現金700万円を取得することになる。Bは(3200万円÷2)−300万円=1300万円で、1300万円を現金で取得することなる。
そこで、最終的な取り分は、Aも1600万円(不動産900万円・現金700万円)Bも1600万円(価格弁償金300万円、現金1300万円)ということになる。

  〈結論は?〉
この問題は、本来は、あってはならないはずだが、担当する弁護士の無知で、結構生じている問題である。
当事者の意思が、「最終的に遺産分割で精算するつもりだった」のか、「これはこれで解決し、遺産分割に影響を及ぼす意図はなかった」のかにかかるが、そもそも、担当弁護士の無知から生じている問題なので、弁護士自身が、そういう問題意識をもっていない。
この問題について唯一触れた論文が、前東京家裁遺産分割専門部の部長だった長秀之元判事だが、そこでは、「今後の検討に委ねたい」として、確答を避けている。(判タ1327)。

遺言が一部の遺産についてのみなされている場合、まずは遺産分割を先行させ、それでも遺留分問題が解決しないときのみ、遺留分の問題を解決すべきであることを弁護士は肝に銘じていてもらいたい。弁護士自身の知識不足から、このような問題が生じているとしたら、ゆゆしき問題である。


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