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zoom RSS 遺留分減殺請求権は3回変身する。遅延損害金・家賃との関係は

<<   作成日時 : 2016/09/17 09:32   >>

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遺留分の争点は、主に、いくら払うかにつきるが、付随問題として家賃の清算、価格弁償金に対する遅延損害金の清算という問題も生ずる。価格弁償金に比べたら金額はわずかだが、対象物が数億円以上だと、かなりの金額になり、無視できない。

まず遺留分を行使すると、減殺請求権は物件返還請求権に変身し、遺留分相当の共有持分権を取得し、対象が不動産の場合は、移転登記請求権となり、さらにその不動産が賃貸物件の場合、遺留分相当の共有持分権に対応する家賃が請求できる。ただし、家賃は、民法は、減殺の請求があった日以後の家賃を返還すれば足りるとしている(1036条)ので、家賃をできるだけ多く取得しようと考えると、遺留分減殺は、早ければ早いほど良い。
(貸家でなくとも、遺留分権利者は、家賃相当使用損害金の請求ができるのか、という問題がある。遺産分割とパラレルに考えることができないと考えれば、家賃相当使用損害金の請求は可能性があるが、その物件を受遺者に相続させるという遺言者の意思には、通常、遺留分減殺されても、事件終了までは使用貸借権を設定する意思があったと考えることもできるし、特に法定果実の返還だけを民法が規定していることからも、使用損害金の請求には疑問な場合が多いだろう。)

遺留分の行使に対して、受遺者は、価格弁償の抗弁権を行使できる。この行使があると、遺留分権利者の権利は価格弁償請求権に転嫁する。そうすると、この時点から、家賃の請求はできなくなるが、今度は価格弁償金について年5%の金利が発生する。
代理人としては、本論にばかり集中せず、法定果実と遅延損害金をにらみながら行動する必要があろう。

ケース
被相続人は父。相続人は長男Aと次男B。遺産は、アパート一棟のみ。被相続人は、長男Aに唯一の遺産であるアパートを相続させるという遺言を残した。アパートの価値は4000万円であり、毎月の賃料は40万円である。特別受益はない。
このケースで、AとBの法律関係がどのように変化していくかを考えてみよう。
〔相続時点1月1日〕
1月1日、相続人が死亡した。この時点では、アパートは、当然に長男Aが相続する。仮に遺言執行者がいても、執行するまでもなく、当然に取得し、Aが単独で相続登記できる。

〔遺留分減殺時点 2月1日 法定果実を取得できる〕
Bが遺留分減殺の意思表示をし、その意思表示は2月1日に到達した。この場合、アパートの4分の1の共有持ち分は当然にBが取得する。Bは、Aに4分の1の共有持ち分を移転登記するよう請求できる。
Bが家賃を請求できるのは、この2月1日時点からである(ただし、賃借人に家賃を請求できるのは、対抗要件を具備した後であり、それ以前は、Aに不当利得として請求することになる)。
遺留分減殺請求は遡及効があるが、民法は、減殺の請求があった日以後の家賃を返還すれば足りるとしている。(1036条)受遺者の安定性を確保するためである。

〔価格弁償の意思表示 3月1日〕
Aは、価格を弁償することで現物の返還を免れることができる。(1041条)。
3月1日、Aは、Bに口頭で「現金1000万円で価格弁償をしたい」と申し出た。しかし、口頭での申し出であり、現実に1000万円の提供はしていない。
この場合、Aは、口頭での申し出であり、現実の提供をしていないから、当然には、現物返還義務を免れない。
「受遺者が遺留分権利者から遺留分減殺に基づく目的物の現物返還請求を受け,遺贈の目的の価額について履行の提供をした場合には,当該受遺者は目的物の返還義務を免れ,他方,当該遺留分権利者は,受遺者に対し,弁償すべき価額に相当する金銭の支払を求める権利を取得すると解される」(最S54・7・10)
しかし、価格弁償の意思表示があった以上、Bは、価格弁償請求権か現物返還請求権を選択できる。(最H20・1・24)Bの権利は、現物返還請求権のみから、価格弁償請求権と現物返還請求権のいずれかを行使できる権利に変化したことになる。
「受遺者が遺贈の目的の価額について履行の提供をしていない場合であっても,遺留分権利者に対して遺贈の目的の価額を弁償する旨の意思表示をしたときには,遺留分権利者は,受遺者に対し,遺留分減殺に基づく目的物の現物返還請求権を行使することもできるし,それに代わる価額弁償請求権を行使することもできる」

〔価格弁償金の提供 4月1日 遅延損害金を請求できる〕
4月1日、Bは、1000万円の支払いを求めた。この場合、遅延損害金はいつから発生するか。遺留分減殺請求の遡及効を考慮すると、相続時からとも考えられるし、価格弁償金は、口頭弁論終結時を基準とすると口頭弁輪終結時とも考えられる。
最高裁は、Aが、価格弁償請求権を確定的に取得した日の翌日から起算すると解している。(最H20・1・24)
「民法1041条1項に基づく価額弁償請求に係る遅延損害金の起算日は,上記のとおり遺留分権利者が価額弁償請求権を確定的に取得し,かつ,受遺者に対し弁償金の支払を請求した日の翌日ということになる」
本件で、Bが、確定的に価格弁償請求権を取得したのは4月1日であり、弁済期は4月1日であるから、弁済期の翌日である4月2日から遅延損害金が発生することになる。訴訟手続きとして考えると、Bが、訴えを交換的に変更して価格弁償金の支払いを求めたときが弁済期であり、その翌日から遅延損害金が発生する。この時点でBの権利は、価格弁償請求権と現物返還請求権のいずれかを行使できる権利から価格弁償返還請求権のみに変化したことになる。

Aは、Bが価格弁償請求権を選択する前に、現実に1000万円の提供をすれば、Bの権利は、価格弁償請求権のみとなり、遺留分相当の家賃を交付する必要はないし、現実の提供をしている以上、Bが受取を拒否しても、Bの受領遅滞となり、遅延損害金は発生しない。


遺留分減殺事件では、権利者の権利が、現物返還請求権→価格弁償請求権or現物返還請求権→価格弁償請求権と三段階に変化する。当事者は、この3段階の変化に対応して行動する必要がある。
受遺者としては、法定果実および遅延損害金の請求をできるだけ抑える必要がある。もし賃貸物件があり、最終的に価格弁償を選択するなら、少なくとも、賃貸物件については、価格弁償を選択し、早期に相当と思われる価格弁償金を現実に提供することが必要である。価格弁償金の現実の提供があれば、それ以降、家賃や遅延損害金は発生しないからである。
(注)最三H12・7・11は、受遺者は個々の物件について価格弁償の選択権があると判示している。価格弁償は、個々の物件について選択できるので、家賃の発生しない物件は、使用損害金が発生しないとすれば価格弁償をあせる必要はなく、逆に、遅延損害金を発生させることになる。

遺留分減殺事件の権利者としては、賃貸物件があるときは、早期に遺留分減殺の意思表示をし、家賃を取得する必要がある。相手が価格弁償の意思表示をしてまだ現実の提供をしてないときは、遅延損害金と家賃のどちらが得かを考え、遅延損害金のほうが有利と判断すれば価格弁償を選択し、家賃のほうが有利と判断すれば価格弁償の選択を急ぐ必要はない。(ただし、価格弁償を選択したときは、相手の支払い能力、強制執行の実行性を考慮する必要がある)

〔収受した家賃は返還すべきか〕
以上は、物件の返還請求権が価格弁償に転嫁しても、転嫁するまでの間に収受した賃料は返還する必要はないという立場を前提としたものだが、これについては最高裁判例がなく、書籍でもほとんど論じられていない。
一般的には、返還不要説が主流ではないかと思われる。遺産分割では、家賃は、遺産分割終了時までは当然に法定相続分に従い各相続人に帰属し、遺産分割の趨勢にかかわらず清算する必要はない。その対比で考えれば返還は不要となるはずである。しかし、これについては、「遺産分割の場合は、相続の法律関係から論理的に導かれる結論であり、法律関係の異なる遺留分減殺では同様に論じられないのではないか」という意見もあるだろう。
返還必要説も論理的にはありうる。最高裁平成4年11月16日判決は、遺留分減殺請求について受遺者が価額弁償を行ったことにより,本件土地が遺贈により被相続人から受遺者に譲渡されたという事実には何ら変動がないことになる」と述べており、遺留分減殺対象財産は、はじめから受遺者に帰属していたという扱いをしているからである。ただ、これは、所得税との関係で述べており、代償分割で代償金が取得原価に算入されないこととのバランスをとったもので、遺留分減殺では同様に論じられないという意見もあるだろう。


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編著/森公任(弁護士)、森元みのり(弁護士)
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